聞きたくても聞けなかった言葉の話
地元に帰った。
ストレートにいけば、大学生最後のお正月。
みんなが集まるのも無理はない。
もう各々が就職をして、今まで以上に散り散りになって、集まるのが難しくなるからだ。
そんな中、私が参加したのは、部活の飲み会だけだった。
同窓会って、嫌いじゃないけど、
「なんでこんなに高いお金を払って、めっちゃ会いたい!
っていうわけでもない人に会いに行くんだろう」と思ってしまい、断った。
誰と再会しても特に心動かずに、「みんな大人になったな~」って思っていた。
何の感動もロマンスもなく、過ぎていく。はずだった。
たった一つだけ参加した飲み会にいたのは、某部活の集まりだった。
特に顔が広いわけではなかった私は、半分以上知らない顔だった。
知っている顔があるとすれば、同じクラスの人、誰かの彼氏、そんな感じだった。
でも、たった一人の顔を見た瞬間時が止まってしまった。
一緒の塾で勉強していた人。
告白するまでもなく、引きずるまでもなく、
単純接触効果で起こる、なんとなくの好意を抱いていた人。
(一緒にいたら好きかもって勘違いするアレ)
国立の二次試験後、全く会わなかった。
卒業式の日も、クラスが違ったから話さなかった。
連絡するまでもなく、塾の先生に、
その人が落ちたことと、そこから連絡が途絶えたことだけを聞いた。
そして、浪人して、当時第二志望だった地方の国立大に通っていることを
同窓会の時に知った。
その人らしい進路だな、って思った。
勇気のない私は、当時も話しかけなかった。
そして、同窓会からまた二年たった今、
地元の安居酒屋でばったり会ってしまったのだ。
色んな事が吹っ切れて、ちょっとだけ大人になっていた私は、話しかけた。
久しぶり、元気?っていう優しい笑顔と、
お互い頑張っているんだろうなっていう暗黙の合意と
憎まれ口を叩く感じが、全然変わってなかった。
大学生活はどう?好きなこと勉強できてる?
その土地は楽しい?友達とか恋愛はしてる?
そして、あの時、私のことどう思ってた?
全部優しい笑顔で、時々ごまかしながら答えてくれるのは分かっていた。
けど、何も聞けずに、別れた。
もう二度と会わないかもしれない。
だって、いる土地も、目指している道も違う。
会う口実もない。
けど、久しぶりに感情が動いて楽しかった。
ありがとう、もしまた会えたら、当時の話を笑いながらしたいな。